「退職するにあたり職場から『健康保険の継続について』の案内をもらいました。退職後は無職になる予定ですが、『国保』よりも現在の職場の健康保険を継続した方がいいですか?」
という質問を職場の同僚から聞かれました。
専業FPではないので、あくまで職場内の雑談程度という感じでしたが。
もちろん無償(ちょっとした茶菓子はいただきましたが…)でアドバイスした訳ですが、わりとありがちな内容かと思ったので、相談事例として取り上げさせてもらいます。
任意継続被保険者制度
この相談者(以降Yさん)は62歳の女性で、年度末で退職しその後は年金をもらうまで預貯金で生活し、働く予定はないとのことでした。
現在は一人暮らしですが、子どもは息子・娘がいて(どちらも独立済)、うち息子は同居しており、たまに孫の世話をしたりと関係は良好です。
Yさんが退職前手続き時に上記の「健康保険の継続について」という案内をもらったということですが、これは「任意継続被保険者制度」というものです。
こむずかしい言葉のように聞こえますが、順を追って説明していきますのでお付き合いください。
まず日本においては「国民皆保険制度」といわれるものが存在し、日本国民全員が公的な医療保険に入ることになっています。いわゆる強制的な保険です。
さらにこの公的医療保険は大きく3つに分けられ、「国民健康保険」と「被用者保険」と「後期高齢者医療制度」があります。
ここでは特に、75歳未満を対象にした「国民健康保険」と「被用者保険」について触れていきます。
「国民健康保険」ちまたでいわれる「国保(コクホ)」です。自営業者・フリーランスの方が入る公的医療保険が原則これにあたります。
「被用者保険」とはそれ以外の方、特に勤め人(サラリーマン・公務員等)を対象にした公的医療保険です。「協会けんぽ」「共済組合」など多くの種類があり、企業独自の保険(トヨタ健保など)や特定の職種の人たちがはいる保険(建労など)もあります。
ちなみに、いわゆる「扶養」されている人(勤め人の配偶者・子ども等)は「被用者保険」に属します。このとき扶養されている人は保険料を払う必要はありません。
Yさんの場合は上記の「被用者保険(職場の健康保険)」に加入していました。退職にともなって通常であればその保険から外れ、「国保」に加入することになります。
ここで「任意継続被保険者制度」が登場します。
この制度は、上記のように被用者保険から外れることになっても最大2年間継続して入ることができる制度です。
この制度が適用される条件として、
- ①退職までに2ヶ月以上継続して該当の被用者保険に加入していること
- ②退職した日の翌日から20日以内に申請すること
- ③加入期間は最大2年間
私の職場でも、退職者のほとんどはこの制度を利用しているようです。
そもそも、なぜ「国保」でなく「任意継続」してまで被用者保険に残る制度があるのか。
その答えの一つとして、一般的に「国保」より「被用者保険」の方が払う保険料が安い場合が多いのです。
また国保には「扶養」という概念がないので、仮に扶養するべき家族がいても保険料を払う必要が出てきます。上記「被用者保険の扶養」は保険料を払わなくてもいいので、大きな違いです。
ただし任意継続被保険者制度のデメリットとして以下3点が挙げられます。
- ①現役時は会社が負担していた分を自分で払う必要がある(全額自己負担)
- ②原則として途中で変更できない
- ③場合によっては、任意継続した方が国保よりも保険料が高くなる場合がある
現役時は保険料の半分は会社負担、もう半分を自分が負担するようになっています。(労使折半といいます)
例えば、現役時代に「健康保険料として1万円が給料から天引き」されていた場合、会社がさらに1万円を負担していたので、全額として2万円の保険料を支払っていたことになります。
つまり退職後に任意継続被保険者になった場合、今まで1万円の負担だった保険料が倍の2万円になるということです。(例外もありますが)
それでも国保の保険料より安ければ任意継続すればいいし、そうでなければ国保に変更すればいいのです。
ここでもう一つ「親族の扶養に入る」という選択肢もあります。ここでいう「扶養」とは、ちまたでいわれる「年収の壁」「働きすぎると手取りが減る」といった【税金上の扶養】ではなく、【健康保険適用のための扶養】です。
Yさんの場合、「息子さんの扶養に入ることができるのでは」とアドバイスしました。
状況を聞いてみると、同居の息子は会社勤めをしており加入しているのは一般的な被用者保険の一種である「協会けんぽ」でした。
そこで、子の扶養に入るための条件として
- ①生計を一にしていること
- ②日本国内に住んでいること
- ③年収180万円未満(60歳以上の場合)
- ④子の収入の1/2以下であること
他にも細かい条件がありますが、大まかには上記のようになっています。
Yさんの場合、国内居住・65歳年金受給までは無収入なので②③はクリア、問題は「①生計を一にしていること」です。
別居している場合は色々と条件がありますが、同居しているとのことなので①もクリアになります。
これで少なくとも年金受給開始までは息子の扶養として健康保険に加入できることになります。
年金受給額はわからないとのことでしたので、受給開始前のねんきん定期便で確認するように伝えました。おそらく条件から外れるほどはもらえないとのことでしたが…
さらに、少なくとも年金受給開始までは息子が扶養するため、扶養控除が適用されます。おそらく息子の手取り収入が増えることになります。
念のため、息子の会社に確認を取ってくださいねと付け加えましたが…
まとめ【扶養→任意継続→国保】
一概にいえるものではありませんが、今回の相談事例のような場合はまず「誰かの扶養に入れないかな」という可能性を探るのが最適解ではないでしょうか。
任意継続と国保との比較は専門家でなければ難しいところはありますが、やはりこれも「まずは任意継続」を軸に考えて国保との比較をした方がいいですね。
最近「年収の壁」がメディアでも話題に上がることが増えました。
職場でも、配偶者の扶養の範囲内で働いている方も数多くいます。
そこにきて政府の賃上げ要請や公務員であれば人事院勧告、収入が増えるのはいいことではありますが一部の家庭にとっては負担が増える可能性もあります。
特にサラリーマンやその扶養されている配偶者にとっては、このあたりの知識を持っていた方がいいと思います。
可能であれば、壁を大きく超えて収入を得た方が社会保険料(健康保険や年金)を払うことになっても手残りは増えます。
結果的に世帯収入が上がりますので、余裕が生まれやすくなります。
今回の相談を受けて、改めてFPの勉強をしていてよかったなと思いました。
実際には、制度内容を完璧に覚えていたわけではなかったのですが、こういう制度・方法があることを知っているもしくは覚えていれば、そこから深掘りして答えを導き出すことができたからです。
そうすることでいろいろな相談を受けることもできますし、自分自身の学び直しにもなります。
最後までご覧いただきありがとうございました。また次の記事でお会いしましょう。