「エンディングノート」という言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
エンディングノートとは、直訳すると「Ending=終わりの」「Note=書き記すこと」
「人生の最後に書き記すノート」ということになり、多くの方が「終活の一環」という認識をもっているはずです。
近年では、終活や遺言といった言葉をよく耳にするようになりました。特にご高齢の方を中心に「終活の第一歩」としてエンディングノートを書き始める方が多いようです。
ちなみに日本ではエンディングノートとして知名度を上げていますが、英語では「Preplanning Note(プレプランニング・ノート)」といい、「事前の打ち合わせノート」という意味合いがあります。
エンディングノートと聞くと「縁起でもない」「亡くなる前に書くもの」というマイナスイメージを持つ方が多いと思います。
実際に私自身もそうでした。
この記事では、そんなエンディングノートについて触れてみたいと思います。
終活とエンディングノート
私は「終活ガイド1級」「エンディングノートセミナー認定講師」という資格を持っています。終活の基礎知識はもちろんのこと、「終活スペシャリスト」としてさまざまな活動ができるようになります。
またエンディングノートの書き方や普及啓発のための認定講師でもあります。
といったところで、まずは「終活」という言葉についてみなさんはどんな印象を持っていますか?具体的にどういったものか説明できますか?
「終活」という言葉は、2009年に某週刊誌で使われたのが始まりだといわれています。2010年には流行語大賞にもノミネートされるくらい、あっという間に広まりました。ある世論調査では「終活」という言葉を知っている人は9割以上といわれています。
近年ではメディアでも取り上げられることが増え、芸能人でも終活を始めたと公言している方も数多くいます。デヴィ夫人やいとうあさこさん、坂上忍さんといった方々が、自分の葬儀や事務所のことや飼っているペットのことまで、何らかの形で意思を残しているそうです。
そんな中でも、やはり終活という言葉のイメージは決して明るいものとはいえません。
近しい人の死を目の当たりにしたり、大きな病気になったりしたのをきっかけに始める人が多いといわれています。
はっきりいうと「終活」という言葉の印象は悪いです。「終わらせる」「最終」「最後・最期」など、結婚式や祝いの席では忌み嫌われる言葉として扱われます。
どうしても「亡くなるのを前提に行うこと」という印象があります。
そんなイメージの終活ですが、現状どんなものなのか。少しデータを見ていきましょう。
前述の通り、終活という言葉の認知度は約9割といわれています。
そして「今後終活を行いたい」と答えた人は6割程度ですが、実際に「終活を始めている人」は約1割です。
意外に少ないと感じませんか?
私の周りにいる50〜60代、いわゆる退職期前後の世代数名に聞いてみたところ、終活をしている人はゼロでした。
ただ一人、エンディングノートを書き上げた身内がいます。
わたしの母親です。7年ほど前になりますが、ある日実家に帰ると突然…
「あのな、最近エンディングノート書きはじめたんよ。」
息子の立場からすると、余命宣告でもされたのかと思って驚いてしまいましたが。
返答の第一声は「えんぎでもない…」だったことを覚えています。
エンディングノートという言葉はなんとなく聞いたことがあったのですが、やはり「亡くなる前に書くもの」「遺言的なもの」という印象を持っていました。
けれども、話を聞いているとそうではないのだと気付かされました。
母親にしてみれば、「元気なうちに、ボケる前に」という思いが強かったそうです。
というのも、母親には終活について考える大きなきっかけがあったのです。
12年ほど前に、仲の良かった大叔母が急死しました。一人暮らし・配偶者無し(離婚)・子ども無しという状況で、本当に急だったため遺言もなにもありませんでした。
土地・建物・そこそこの財産があったため相続が発生します。この場合、配偶者・子ども・親がいませんので、兄弟姉妹に相続権が発生します。
そしてその兄弟姉妹が8人(うち4名他界)もいたのです。
私の祖母もすでに亡くなっていたため、私の母親にも相続権が回ってきました。(代襲相続といいます)生存している兄弟姉妹+叔母やいとこにいたるまで、かなりの範囲に相続権が発生したようです。
私の母は相続放棄の手続きを行いましたが、10年以上経った今も決着がついていないようです。この間に亡くなった方もいますので、さらに複雑化しているでしょう。
そんなこともあり、終活の重要性に気付き「エンディングノート」に辿り着いたそうです。
残す財産もないので相続では揉めることはないだろうと笑いながらいっていましたが…
エンディングノートのメリットとデメリット
エンディングノートは、自分の意志や家族への思いを伝えたりするのに便利なツールです。終活の大きな目的のひとつがそれにあたるので、終活をする上では欠かせないといってもいいでしょう。
そんなエンディングノートのメリットとして次の3つが挙げられます。
- ①手軽
- ②安価
- ③制約がない
なんといっても「手軽」なこと、終活の第一歩ともいわれるくらい始めやすいことです。
誰かに依頼しなくても、どこかに出向かなくても、いつでも始められます。生活のスキマ時間にも書くことができるので「さあやるぞ!」と気負う必要もありません。
次に「安価」なこと。
エンディングノートと似たような印象を持たれる「遺言書」、もし遺言書を作成する場合は弁護士等に相談することが多いので数万〜数十万円の費用が発生します。
エンディングノートの場合は、本屋で数百円〜数千円ほどで購入することができますし、一部の100円ショップでも取り扱っています。
自治体によっては無料で配布しているところもあるそうです。
いってしまえば、特に「エンディングノート」として準備する必要もなく、一般的なノートに書き留めておいてもいいですし、ルーズリーフに書いて綴じておいてもいいのです。
そして「制約がない」こと。
遺言には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。どれも法的に認められた遺言ですので法的拘束力があります。
それがメリットであるがゆえに、作成には一定の決まりや証人や費用が必要です。それが「わずらわしい」「めんどくさい」に繋がってしまうこともあります。
エンディングノートの場合はそのような制約がありませんので、まさに「自由」に書くことができます。
書き方や内容、手書きだろうがパソコンで作ろうが音声で残そうが自由です。署名捺印や証人ももちろんいりません。
終活というとどうしてもお金や不動産の相続のイメージを持つ方が多いと思います。実際に「遺言書」といわれるものの内容はそれらが主な内容になることが多いものです。
けれどもエンディングノートはもっと身近なこと、例えば「自分の生い立ち」「遺品整理のこと」「残された配偶者のこと」「ペットのこと」などを気軽に書いておくことができます。(遺言にもこのようなことが書けないわけではありません)
とにかく「安い・早い・自由」なのが大きなメリットです。
ではデメリットも見てみましょう、次の3つです。
- ①保管や更新の手間
- ②法的拘束力がない
- ③めんどくさい
作ったはいいもののノートの存在を誰かに伝えておかなければ意味がありません。ただの一冊のノートとして捨てられてしまうかもしれません。ですので誰かに伝えるとともに決められた場所に置いておく必要があります。
また、手軽に書けるがゆえに内容も毎年変わってしまうこともあります。
「生命保険のことを書いていたけど、満期金を受け取って保険が失効してしまった」
「知人の連絡先を書いていたが、先に亡くなってしまった」
「葬儀はしなくていいと思っていたが、やはり知人を呼んでやってほしい」
書きあげた時とは状況が変わったり、考え直したり心変わりがあったりもするでしょう。むしろそれが当たり前です。
そんな時にはノートを加筆・修正する必要があります。
これらが「保管や更新の手間」になります。
次に「法的拘束力がない」について、先述の3種類の「遺言」には法的な拘束力があります。ですので、原則として「死後は遺言書の内容通りにする」必要があります。
ですがエンディングノートには法的拘束力がありませんので、ノートの内容通りにする必要はないのです。あくまで自分の意思を伝えるだけのものになってしまいます。
仮に「遺骨は○○に散骨してほしい」と書いていても、その通りにする必要はありません。「預金は全額△△に寄付してほしい」と書いていても、遺族で分け合っても罪に問われることはありません。ノートの内容通りにするかしないかは遺族の判断に任されます。
そして最大のデメリットといってもいいでしょう。
「めんどくさい」
弁護士に依頼したり、費用を払ったりすると半ば強制的に進めていくことになりますが、エンディングノートの場合はそれがありません。
つまりは、自分の意思で最初から最後まで書き上げる必要があります。手軽に、安く、自由に書けることは間違いないのですが、本人の書く気がなければ前には進みません。
人類最大の敵「めんどくさい」に打ち勝たないとエンディングノートは完成しないのです。
終活は全ての年代で重要
実際に私自身もエンディングノートをすでに書いています。
終活ガイド検定を実施している終活協議会が発行しているエンディングノートを使いました。
内容や書き方もかんたんで、とてもスイスイと書き進めることができました。足りない分は巻末のメモ欄にも書き足せるし、十分なものに仕上げることができますのでオススメです。
40代と終活には少し早いと思われるかもしれませんが、妻子がいて少なからず遺すものもある中で必要性を感じていました。
実際に書きあげてみて、「現状をより知ることができる」のが1番のメリットだと感じました。とくに私を含めた働き盛りの30〜40代の方にも大事なことではないでしょうか。
家族への思いやりという意味でも若いうちから考えておくべきです。
もちろんご年配の方にとっても、今まで、そしてこれからのことを考えるきっかけになります。
書く年代によってメリットの感じ方・捉え方はそれぞれ違うかもしれませんが、どの年代でもエンディングノートの必要性を感じることができると思います。
「今さらなあ…」
「こんな時分から?」
なんてことを考えず、思い立ったらすぐにやってみましょう。
最後までご覧いただきありがとうございました。また次の記事でお会いしましょう。